中古住宅を買いたいが耐震性が不安、買った後どのぐらい住めるのか、買った後の修繕費はどのぐらいかかるのか……。中古住宅購入者にとって、「買った後の不安」の種は尽きません。このような不安を払拭してくれるのが「ホームインスペクション」といえるでしょう。
ホームインスペクションとは?
ホームインスペクション(住宅診断)とは「住宅向け建物検査サービス」のことです。ホームインスペクター(住宅診断員)が住宅の劣化状況や建物の不具合を検査します。それにより補修個所・時期を見定め、補修費の見積もりを行います。ホームインスペクションを利用すると、一般に次のようなメリットがあるといわれています。
買主
・ホームインスペクターが第三者的立場で検査するので、検査の信憑性が高い
・入居後に建物の欠陥・不具合が判明し、売主とトラブルになったり、補修工事を行う必要 が出てきたりするなどの煩わしさを回避できる
・「欠陥住宅」や「買ってはいけない住宅」の購入リスクを減らせる
・購入後は「どこを、いつ頃」修繕すればよいのか、また費用はどの程度かかるのかの見通しを立てられる
・ホームインスペクション報告書(診断結果)を、自宅の資産価値を維持するための根拠資料(住宅履歴書)として活用できる
・住宅の劣化状況、欠陥・不具合の有無、補修すべき個所などを、買主に客観的根拠に基づき説明し、買主の「もしかしたら」の疑念を拭えるので取引がスムーズに行え、早期売却の可能性が高まる
・ホームインスペクションにより欠陥・不具合を発見できれば、自宅売出し前にその個所を補修できるので、売却後の買主とのトラブルを防止できる
・ホームインスペクション報告書を根拠に住宅の安全性をアピールできるので、売却交渉を有利に進める可能性が高まる
売主
では、ホームインスペクション利用者の実感はどうなのでしょうか。
例えば、NPO法人の日本ホームインスペクターズ協会が2010年8月に発表した「ホームインスペクション利用者100人のホンネ」には、以下の声が挙げられています。
・ホームインスペクションを利用した動機
「購入を検討した物件に劣化状況など具体的な不安があった」、「高い買い物なのでプロのアドバイスを受けておこうと思った」、「自分たちだけでは物件の何をチェックすればいいのか分からなかった」、「物件購入後の補修費の目安を知りたかった」など
・ホームインスペクションを利用した感想
「建物のチェックポイントを知らなかったので勉強になった」、「書籍、雑誌、webなどで情報収集や勉強をしていたつもりだったがそれでも気付けなかった注意点がかなりあり、それを事前に知ることができた、安心できた」、「ホームインスペクション報告書に基づき売主に修繕や値引きの交渉をしたので、納得のゆく買い物ができた」など
また、「もう一度中古住宅を購入するとしたらまたホームインスペクションを利用したいか」との問いには、95%が「利用したい」と答えており、ホームインスペクション利用者の満足度の高さがうかがえます。
ホームインスペクションが普及してきた理由
ホームインスペクション普及の背景には、2011年3月に発生した東日本大震災があります。大震災を機に、住宅の耐震性に対する関心が再び高まったためと見られています。また、国土交通省が2013年6月に発表した「既存住宅インスペクション・ガイドライン」も、普及の順風になったといわれています。
同省がホームインスペクションのガイドラインを策定した目的は「優良な中古住宅の流通促進と健全な中古住宅市場の形成」にありました。すなわち、中古住宅売買の際、インスペクター(建物検査員)が事前に物件の劣化状況、欠陥・不具合の有無などを検査することで、「消費者が安心して中古住宅を購入できる市場環境を整えよう」というものです。
ところで、ホームインスペクションには次の3レベルがあります。
1.一次的インスペクション……住宅の現況を把握するための基礎レベル。目視・非破壊検査により、構造安全性や日常生活上の支障があると考えられる劣化事象等の有無を把握するための検査。
2.二次的インスペクション……破壊検査を含めた詳細な検査により、劣化事象等の範囲と原因を特定し、建物の安全性を総合的に把握するための検査(耐震診断は当レベル)。
3.性能向上インスペクション……耐震改修や住宅リフォームの実施後に現況把握検査を行い、住宅の性能向上状況を把握するための検査。
このうち、国土交通省の前述ガイドラインは一次インスペクションの実施要件を示したにすぎず、具体的には、以下の3点が検査の対象と項目になっています。
・構造耐力上の安全性に問題のある可能性が高いもの……屋根の骨組み、柱・梁(はり)、壁、床、土台など構造耐力の主要個所
・雨漏り・水漏れが発生している、または発生する可能性が高いもの……屋根、天井、外壁・内壁、屋外に面した窓枠など
・設備配管に日常生活上支障のある劣化等が生じているもの……給排水管・給湯管の詰まり・発錆(はっせい)、換気ダクトの換気不良など
同省がガイドラインのレベルを基礎レベルに止めたのは、「ホームインスペクション普及に向けては、消費者の検査費用負担軽減が重要」との判断からといわれています。
ホームインスペクション義務化で中古住宅購入の何が変わるのか
2016年6月に公布された「改正宅建業法(宅地建物取引業法の一部を改正する法律)」に、ホームインスペクションに関する義務規定が盛り込まれました。
「不動産仲介会社の宅地建物取引士は、住宅の取引契約を結ぶ前に、重要事項説明書(物件内容を記載した書類)に署名捺印する。また、その書類を契約対象者に交付したうえで、口頭で説明しなければならない」と宅建業法が定めています。なお、「重要事項説明書」は「重説」と呼ばれています。
改正宅建業法は、この重説にホームインスペクションに関する義務規定を追加したもので、この規定は2018年4月1日から適用される運びとなっています。
その内容は、以下の通りであり、そのポイントは「不動産仲介会社がインスペクターを斡旋できるかどうかにある」と、一般に解釈されています。
1.媒介契約において、建物状況検査を実施するインスペクターを斡旋できるかどうかを記載した書面の交付
2.買主等に対する建物状況検査の結果を重要事項として説明
3.売買等の契約成立時に、当事者双方が建物状況について確認した事項を記載した書面の交付
したがって、例えば売主が「ホームインスペクションは利用しない」と断れば、不動産仲介会社は売主にホームインスペクション利用を勧めたり、インスペクターの斡旋をしたりはできない理屈です。
とはいえ、不動産仲介会社は中古住宅売買の相談に来た買主や売主に対し、「ホームインスペクションを利用すれば安心度の高い取引ができます。当社はそのお役立ちができます」と、物件仲介の信頼性の高さを法的根拠に基づき堂々とアピールすることは可能です。よって、これが不動産仲介会社選びの基準の1つになっていくのは必定と見られています。
新築住宅の場合は、設計図・工法や建材の強度・耐久性、品確法に基づく住宅性能表示などにより、消費者は耐震性をはじめとする住宅の品質を判断できます。しかし、中古住宅の場合は上記資料、建築確認申請書などが行方不明になっているケースが多く、住宅の品質判断が困難です。この困難を補うのがホームインスペクションといえるでしょう。
不動産仲介会社がホームインスペクション普及の一翼を担えば、消費者の選択基準も増え、従来にも増して消費者が安心して中古住宅を購入できるようになるでしょう。ここに改正宅建業法の狙いがあるようです。
ホームインスペクター選びのポイント
ホームインスペクター(ホームインスペクションサービス会社)選びは、一般に、以下がポイントとされています。
・建物検査の実績が豊富
・コミュニケーション能力が高く、検査内容と結果を分かりやすく説明してくれる
しかし、このようなポイントで、ホームインスペクターのスキルが判断できるかというと疑問です。ホームインスペクターには、建築構造設計、耐震性などに関する高度な専門知識と検査経験に裏打ちされたスキルが必要です。ところが現在、ホームインスペクターの法的な資格要件が未整備で、不動産業界関係者なら誰でもホームインスペクターを名乗れる状況です。この状況は改正宅建法適用後も変わらないと予想されています。
したがって、ホームインスペクター選びに際しては、建築構造設計と耐震性・建物検査の専門家である耐震診断サービス会社に相談するのがベターでしょう。
参考:
・ホームインスペクションとは|NPO法人日本ホームインスペクターズ協会
・ホームインスペクション利用者100人のホンネ|NPO法人日本ホームインスペクターズ協会(PDF)
・「インスペクション」とは|All About
・中古住宅購入者も知ろう! インスペクション検査項目|All About
・既存住宅インスペクション・ガイドライン|国土交通省(PDF)
・「宅地建物取引業法の一部を改正する法律の施行期日を定める政令」を閣議決定|国土交通省
・「ホームインスペクション」は今後の中古住宅売買で必須になるかもしれない|マンションマーケット
・インスペクションの重説義務化で、中古購入どう変わる?|All About
・建築士でないホームインスペクターでは意味がない|ホームインスペクション
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