写真はBrian Voon Yee Yapによる
こんにちは、ケンです。
前回は、シドニー オペラハウスのコンペ案について、その屋根曲面のスケッチを数学で解析することの困難さについてお話しました。設計者であるヨハン・ウッツオンの「卵の殻のようになめらかな曲面にしたい」という強い意志を実現しようと、オブ・アラップと構造設計技術者達は、想定を超える長期間、苦心を重ねることになります。
まずは、屋根の曲線を放物線に見立てて、解析作業が始まりましたが、すぐにシェルの足元の曲げ応力があまりにも大きくなり過ぎて、設計出来ないことがわかりました。この強大な曲げモーメントに対応するため、シェルを2重構造とし、その中に鉄骨トラスを組み込む案、開口部をルーバー状の壁で補強し、重なりあう3つのシェルを一体とする案、等々も提案されました。しかし、ウッツオンは1枚の滑らかなシェルに強くこだわり受け入れませんでした。
それらの検討に、3年以上の膨大な時間と技術を投入した結果、卵の殻のようになめらかなシェルは、どうやっても実現不可能であることがわかりました。結局、屋根曲面を無骨なリブで補強する案で進めることになりました。
残念ながら、アラップと彼が率いる一流の技術者集団をもってしても、ウッツオンのスケッチに描かれた曲面の実現が、著しく困難なチャレンジであることはわかっても、実際に不可能であることを見抜くのは難しかったようです。当時はシェル構造の黎明期であり、世界各地で、つぎつぎと斬新なシェル構造が実現し、その可能性が大きく広がっている時期でした。シェル構造の未だ秘められたポテンシャルを引き出せば、もしかしたら実現可能かも知れないと思わせる絶妙な説得力が、ウッツオンのスケッチにはあったようです。
(次回につづく)
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