内陣からドームを見上げる
前回は、フィレンツェ大聖堂のドーム工事に関わった職人達について、ドーム外殻の2重シェル構造とからめて、ご紹介しました。
今回は、ドーム工事の進め方について、当時の資料と今もドームに残る工事の痕跡から、たどってみたいと思います。
20世紀初めまで、内部の仮枠なくしてドームを建設する手法については、様々に議論されてきましたが、決定的な資料の収集はまだ十分とは言えません。
有力なヒントとされる資料として、例えば、18世紀のフィレンツェの技術者による、ローマ サン・ピエトロ大聖堂の工事に用いられた内部足場の再現図が残っています。
しかしこれは、内部仮枠工法を前提にしたスケッチであり、残存するフィレンツェ大聖堂ドーム工事の「仕様書」に明記されている「仮枠なし」という記述や、当時の著名な作家達の証言と矛盾します。
また、8角形の基壇から立ち上がる巨大なリブの建造にはほとんど役に立たず、やはり内部空間を圧迫し、作業を妨げることになります。
この時、意味を持ってくるのが、ドームの2重シェルを受け止める基壇が、5mもの厚さとなっていることです。
ドーム立ち上がり部の8角形各辺の内側には60㎝角の四角い穴が6個ずつ水平にあけられており、ここに角材を差し込むことで、作業足場を建物内部に5mほど張り出すことが出来ます。ドームの立ち上がり1/3程の高さまでなら、この内部足場の上から、リブの立ち上がりや内側シェルの施工作業が、仮枠なしでも可能となります。1/3まで立ち上げられたリブは、そこで水平のつなぎ梁でリング状に固定され、このつなぎ梁を足掛かりとして、次の作業用プラットフォームが造られたと考えられます。
矢筈積み(やはずづみ)
このつなぎ梁より上部では、大型のレンガが水平にではなく、矢筈に積まれています。速硬性のセメントを用いて、かなり内向きの傾斜がついた面でも、その斜めに噛み合った目地のおかげで仮枠なしでレンガを積んでゆくことができたのではないかと推察されます。
2/3より上の部分まで来ると、仮枠なしでレンガを定着させるのは無理になるのため、何らかの仮枠とそれを支える骨組みが必要になります。例えば、3層目の繋ぎ梁のところで足場の角材を固定し、トラス状の架構を構築するか、あるいは繋ぎ梁に金物を取り付け、そこから吊るすようなかたちをとったのではないかと考えられています。
(次回に続く)
0コメント